約 1,076,908 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2336.html
もうすっかり日が沈んだ人気の無い宿場街の出口へ向かう影五つ。 老婆が一人、メイジが二人、韻竜が一匹、そして元ギャングが一人という混成チームと相成っております。 その集団の中から、ものスゴクたるそうな、やる気の無い声が聞こえてきた。 「歩きで三時間か……」 「なにせ、エズレ村はわずかな畑があるだけの何も無い村なんですえ。ですから、ほとんどが歩きだけになっておりますのじゃ」 平均的な人間の徒歩の速度が時速5km。この婆さんだともう少し遅くなる事や休憩を計算に入れると、約十~十二kmというところか。 それでも冗談じゃあねー、というのが本音だろう。 普通ならまだいいのだが、酒が入っているのでダルいのである。 予定外の事をやらねばならなくなったためというのもあるが、とにかくダルい。 ダルいだけにさっさと終わらせたいのだが、徒歩で三時間なぞ御免被るというところだ。 シルフィードが人間形態を取っているため、この場合の最速の移動方法は馬ぐらいしかないのだが 夜、しかも主要な街道から外れた宿場街だけに、正規の手段では手に入りそうにない。 まぁ盗んでもいいのだが、最低三頭は必要な上に、足手纏いが居るので下手打って厄介な事になる可能性高い。 騒ぎになっても面倒なので、他になんかないかと考えていたが、うってつけの移動手段がある事を思い出した。 「だからってあんたら……」 少し時間が経ち、今のフーケの目に映るのは、『ライト』で照らしながら本を読むタバサ、爆睡しているシルフィード さっきから怯えてしがみ付いているドミニク婆さん、そして店から持ってきた酒を瓶のまま飲むプロシュートの四人。 「わたしのゴーレムを馬車代わりにするんじゃあないよ!」 自慢のゴーレムの上で思いっきりくつろがれている様子に、さすがのフーケもこれには怒鳴った。 「構やしねーだろ。減りゃあしねぇんだからよ」 「減るんだよ……!精神力とかが思いっきり!」 何時になく強気だが、自分はゴーレムを動かすために命令とか出さなくちゃあならないのに ドミニク婆さんを除いて、こうもゆったりされてはそりゃあムカつきもするというものだろう。 肩を掴まれ振り向いてみると、すっげぇ良い顔をしながら『ゴーレムを出せ』だ。 表情こそ若干笑顔寄りだったのだが、酒せいか、それとも素でそうなのか、目だけは全く笑っていなかった。 正直、いつもの数倍怖かったので、言われるがままにゴーレムを出したのだが、さすがに、いいや限界だッ!というところだ。 この際、振り落としてやろうかとも思ったが、それはそれでディ・モールト後が怖いので考え直した。 第一、振り落としてもゴーレムにしがみ付かれてそのまま老化させられそうな気がする。 中の自分に言い聞かせつつゴーレムを動かしていたが、三十分もすると例のエズレ村が見えてきた。 「ほら、見えたよ」 ゴーレムの手が下に降りると各自地面に降りたが、一人だけ動こうとしない。 「ふにゃ……もうお肉食べられないのね……」 そんな寝ぼけた声を出すのはご存知シルフィードだ。 起こそうと一発頭を叩いたのだが、潰れたような声をあげると、またぐーすか寝息をたてはじめた。 「このヤロー……」 あんだけ食ってまだ食い物の夢を見るとは大したタマだが、放っておくわけにもいかない。 雪山での遭難者を起こす要領でシルフィードを起こそうとしたが、それより先にタバサがドミニク婆さんに聞こえないように小声で話しかけてきた。 「人の姿に化けてる時は脳の疲労が凄く大きい」 それを聞いて起こすのを諦めた。 今のシルフィードは、ギアッチョがジェントリー・ウィープスを展開し続けているようなものだ。 そう考えればエネルギーの消耗も半端ではないのだろう。 それに、ミノタウロスのアジトは洞窟だと聞いた。 竜の姿に戻っても通れやしないだろうし、人の姿のままでは極めて役立たずである。 それならば、このままでも特に問題はない。 完全に起きる気配が無いので、猫を扱うかのようにシルフィードの首元を掴むとそのまま背負う。 「ちッ……見かけより重いなこいつ……」 そう文句を垂れたが、元の質量がこの姿に収まっていると思えば、まだ軽い方だ。 「さすが、おにいさまはお優しい事で」 棒切れで造った貧相な門に近付くが、横からフーケの茶化すような声が届く。否、確実に茶化している。 「なら、てめーが代われ」 「ゴーレム作って疲れたからね。絶対にノゥ」 その返事に思わず舌打ちをしたが、さっきまでゴーレムの上でくつろいでいたので、仕方ねぇと思うことにした。 タバサはミノタウロスと戦るにあたって精神力を温存しておきたいだろうし、ドミニク婆さんはどちらかというと背負われる方である。 つまるところ、自分でやるしかないのだ。 無論、背中で無駄に良い夢を見ている寝ボケ竜が起きてくれれば、それが一番いいのだが。 「それでだ、ミノってのは何時から居んだよ」 「ミノタウロスが現れたのは先週の事でして……その時に手紙を村の広場の掲示板に貼り付けていったんです」 ドミニク婆さんが一枚の獣の毛皮を差し出したが、内側に血文字が書かれてある。 『一週後の晩、森の洞窟前にジジなる娘を用意するべし』 「……先週ってこたぁ……今日じゃねーかッ!」 「ですから、騎士様の姿をお見かけした時は、藁にもすがる思いでお頼みしたのでございます……」 よくやんぜ、まったく……と本気でそう思う。 一週間の時間的余裕があるなら、とっとと逃げるなりすればいいはずだ。 といっても、それは生粋の現代イタリアンの思考。 この世界の一般的な価値観は村は全てで、一度それを捨てれば他の場所で受け入られるかどうかの可能性はそう高くは無い。 そもそも、村中をかき集めて集まった金が三エキューにも満たないようでは、野垂れ死には確実だろう。 毛皮をタバサに渡しながら門をくぐると、ゴーレムの足音で外に出ていたのか、あちこちから村人が家から出てくるのが見える。 「騎士様を連れてきたよ!」 ドミニク婆さんが声をあげると、分かりやすい杖を持っているだけに、ゴーレムもタバサが出したのかと思った村人が、わらわらと集ってきた。 完全に村人の関心はタバサに移っているので、半ば放置されているプロシュートとフーケだが 村人達の姿を観察していると、少しばかり様子がおかしい事に気付いた。 「妙だな」 「……そうだね」 村人の意識がタバサに集まっている事は分かる。 ミノタウロスを倒しにメイジが、こんな何も無い寂れた村にやってきたというのだから当然だ。 解せないのは、村人がドミニク婆さんと目を合わせようとしない事。 村にとって救世主的な存在を、やっと連れてきたのだから 連れてきた方にも、なんらかのアクションがとられてもおかしくはないのだが、それが全く無い。 どいつもこいつも、例えるなら『全焼した家の前に、やっとやってきた消防車』でも見るかのような目をしている。 大方、十中八九ドミニク婆さんにとって、あまり喜ばしくない結果が待っているという事だ。 「どうも、後手に回ったみてーだな」 やれやれだ、と思いながら息を吐き出すと、出した量だけ吸い込んだ。 冷えた温度と、森の澄み切った空気が酔いを醒ましていく。 イタリアの淀んだ空気では、こんな事すらやる気にならないだろう。 タバサとミノタウロスがどうあれ、殺し合いの場に出向くのだから酒に酔ったままというのも問題がある。 あまり酒に酔わない方なので、あのままでも特に問題無いのだが、万が一でも酒に酔ったせいで死んだなど言い訳にもならないのである。 どうせ殺られるなら万全の状態で。というのが暗殺チームの慣例だ。 もっとも、あくまで『殺られるなら』であり、大概は殺られるより先に殺ってきたので、『殺るなら』自分が万全の状態で、となっていたのだが。 タバサがドミニク婆さんに、家はどこかと促したが、肝心の当人は気付いた様子は無い。 場合が場合だけに必死なんだろうが、これから数十秒後にどうなるかと考えただけで頭が痛くなる。 ただでさえ割に合わない仕事なのに、これ以上厄介な事が上乗せされては、精神的にも赤字というやつだ。 ギャング的に考えるなら、搾り取れるだけ搾り取るのだが、正直この村自体から取れる物が全く無い。 あるとすれば家や土地ぐらいだろうが、そんなもんあってもどうしようもないし 現金化するにも、こんなド辺鄙な村の猫の額のような土地なぞ二束三文にもならないし面倒だ。 となると、残された物は命ぐらいしか無いのだが、生命保険も無いような世界では同じように意味は無い。 「しょうがねぇ……か」 少々思考が危ない方に向いていたが、昔の仲間の口癖を聞こえない程度に言うと頭の中を切り替える。 こうなれば、精々タバサに頑張ってもらって出番が回ってくるような事態にならない事を願うだけだ。 「これって最悪のパターンよねぇ」 フーケも似たような結論に達したらしく、ドミニク婆さんと少し距離を取っている。 少し歩くと、プロシュート視点からすれば、素朴というより貧相というドミニク婆さんの家は村外れにあった。 ドミニク婆さんが扉を開くと、どう見ても若い娘には見えない女性が一人で泣いているところだった。 「……ジジは、ジジはどうしたんだい!」 ただならぬ様子にドミニク婆さんが問いただすが、返ってきた返事は、思ったとおりだった。 「あの娘は……あの娘は、自分のために、誰かが犠性なるのは耐えられない、と言ってミノタウロスの所に……」 予想的中。 やはり事後だったようで、プロシュートとフーケが気付かれないように家の外に避難した瞬間、家の中から大きな泣き声が聞こえてきた。 「せ、せっかく騎士様をお連れしたっていうのに、あ、あんまりだよ!この世の幸せを一つ知らんで死ぬなんて……!」 どっかの炎の柱の男のように、ドミニク婆さんが泣き喚いていたが、それを見ていたタバサがぽつりと小さく言った。 「どのぐらい前?」 「さ、三十分ほど前です」 少し考えたようだったが、短く答えた。 「まだ間に合う」 それを聞いて外の二人が、さらに三歩下がった。 「おおお、ありがとうございますだ!ありがとうございますだ!ジジを、ジジをよろしく頼みます!!」 「後生でございます!どうか!どうか娘をお助けください!」 絶叫ともいえるような声と共に、ドミニク婆さんとジジの母親がタバサの足にすがりついて泣いている。 その光景を見て、外に出ていて良かったと本気でそう思う。 なにせ、今の婆さんと母親の顔の表面は涙と鼻水の混合物で溢れているのだ。 その状態で、あんな風にすがり付かれたのではたまったもんじゃあない。 よく、アレに絡まれて平気な面してんなー、と思っていたが、タバサがドミニク婆さんに向け、何時もどおりに言った。 「洞窟まで案内して」 そして次にプロシュートを振り向いて同じ調子で言った。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/744.html
ルイズが起こした爆煙が晴れると……そこには一本の剣が突き立っていた 「見ろよ! 『ゼロ』のルイズは剣を喚び出したぞ!」 「凄いな……負の意味で」 「いや、インテリジェンスソードの可能性も…」 周囲からの嘲笑を右から左へ聞き流し、剣を手にとってみる ルイズの頭の中に、誰かが語りかけてくる ──わたしの名はアヌビス…おまえはわたしの本体になるのだ…… (あんた…インテリジェンスソード……?) ──おまえは達人になった…誰よりも強い剣の達人だ…… ──私を使って殺すのだ…… ピシィィィン 「チクショオオオオ! くらえギーシュ! 必殺エクスプロージョン・スラッシュ!」 「さあ来いヴァリエール! 僕は実はモンモランシー一筋だぞオオ!」 ザン! 「グアアアア! こ、このトリステインの種馬と呼ばれるギーシュ・ド・グラモンが…『ゼロ』のルイズに… バ…バカなアアアアアア」 「ギーシュがやられた…」 「フフ…所詮ギーシュはドットクラス… 『ゼロ』のルイズに負けるとはメイジの面汚しね…」 「くらええええ!」 ズサ 「グアアアアアアア」 「やった…ツェルプストーとついでにタバサを倒したわ… そしてこの間学院に侵入した泥棒・『土くれ』のフーケを倒せば、もうあたしをバカにする奴はいなくなる!」 「よく来たわねミス・ヴァリエール…待っていたわ…」 「オスマン学院長の秘書のミス・ロングビルが『土くれ』のフーケだったの…! それにこの魔力は…トライアングルクラス…!」 「ミス・ヴァリエール…戦う前に一つ言っておくわ。私が盗んだ『破壊の杖』だけど、私には使い方が分からなかったの」 「な、何ですって!?」 「だから学院の宝物庫に戻しておいたわ。あとは私を倒すだけね、フフ…」 ゴゴゴゴ… 「上等よ…あたしも一つ言っておくことがあるわ あたしの魔法が失敗して爆発ばかりなのは『虚無』の属性に関係があるような気がしていたけど、別にそんなことはなかったわ!」 「あらそう」 「ウオオオいくぞオオオ!」 「来なさい小娘!」 ルイズの魔法が世界を救うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1014.html
第2章 中編 「……50Mプールぐらいあんじゃねぇか?ここ。」 トリステイン魔法学院の食堂は(ry …とにかく広くて豪華です。 この学院では、マントで学年分けしてるみたいだ……。 一年生は ”marrone”(伊:茶色の) 二年生は ”nero” (伊:黒い) 三年生は ”viola”(伊:紫色の) 一年生より、三年生の方が凄い魔法とか使えるのか? 食堂には生徒以外にも教師が朝食をとりに来ていた。 (教師か…。 それこそ”凄いヤツ”がいてもおかしくないな) キョロキョロと辺りを見渡していると、ルイズが講釈し始めた。 「どう? 凄いでしょ。」 「あぁ。とても豪華だし、人もいっぱいいるな。」 得意げにふふんと鼻を鳴らし、話を続けるルイズ。 「トリステイン魔法学院が教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 「魔法だけじゃない?」 「メイジはほぼ貴族なの。貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ」 食事も”貴族らしく”ってことらしい。 マナーは勿論、質と量も。 ほんとは、この食堂へは『平民』は一生入れないらしい。 それはそれは。とあいまいな返事を返しつつ、ルイズのため椅子を引く。 桃色がかったブロンド娘は気品良く、椅子に腰掛ける。 「隣に座っても?」 こちらもマナーとして一応御主人様にお伺いを立てる。 「残念でした。 あんたは…」 そこまで言って、ルイズは固まってしまった。 どうした? スタンド攻撃でもされたか? オラオラですか? 無駄無駄ですか? 「……」 「もしかして…」 「……」 「オレの分、準備していない?」 「…Yes!Yes!Yes!……(OH MY GOD!)……」 「………(ドジこいたーッ! 昨日厨房に言い忘れてた! とっておきの作戦があったのに!こいつはいかーん! チクショー!!)」 「……それはねぇよ。 ルイズ…」 「き、貴族でも、極々稀にミスはするものよ!」 「………」 今度は使い魔が黙る。何か訴えるかのような目つきでルイズを見つめる。 「……な、何よ?」 「―――ミスより」 「は?」 「ミスよりキスがいいな……」 「…なッ!!」 今度はルイズが赤くなる。それにして感情の起伏が激しい娘だ。 「御主人様より、『ごめんねのキス』を頂ければ幸いです…」 仰々しくお辞儀をして、ゆっくりと頭を上げる。 …ヤバイ。 肩を小刻みに震わせている。 キレるな。これ。 調子に乗るんじゃあない!とテーブルにあったフルーツを投げつけられる。 貴族のマナーは一体何処へ……。 「『食べ物を粗末にしちゃいけません!』って、危ないっ!」 至近距離である。いくら少女の力でも痛い。 特に落とさないように、掌で受けるから痺れる痺れる。 数個投げると、ルイズは椅子に座りなおし、そっぽをむいたまま告げる。 「……そ、それでも食べてなさい!」 「……キスは?」 今度は燭台を投げようとするルイズを見て諦めた。 …朝は『濃い目のエスプレッソに、砂糖をたっぷり入れたヤツ』って決めてんだがなぁ……。 怒るルイズから逃げるため、食堂の壁際まで逃げてきていた。 でもエスプレッソどころか、コーヒー自体あるかどうか……。 パスタやピッツァは? そもそもトマトはあんのか? …すげー不安だ。 朝食は軽めに済ませる性質(たち)のスクアーロは、フルーツと思わしきものに噛り付く。 リンゴだよな?… こっちは…どう見てもオレンジ……。 元の世界とほとんど似ているが、なんとなく違う気がするフルーツを味わう。 味は悪くない。というか美味い。……良かった。これで食事は期待できる。 この味が”美味い”という感覚ならば、料理も高水準だろう。 しかし、これはあくまでも貴族用だ。 使い魔でしかも平民(とされている)の自分の食事はどうだろう? 朝はともかく、昼食や夕食が貧しいものであったら……。 「かなりヤバイな…(自制が利くかどうか… きっと暴れるね…)」 交渉なり、実力行使なりで、どうにかしなくては……。 ルイズと交渉するか…? だめだろうな… きっと…。 窃盗・恐喝でもするか…? …それじゃ、ただのチンピラだ。 …最終手段だな…。 もっと、楽で確実で。できれば美味いものを…。 一年生の女子生徒が数人、こちらを”ちらちら”見ているのに気づく。 笑顔で手を振る。 あ… 貴族様だから、怒るか無視する? (あれ… 笑ってる… というか、喜んでる?) 以外にも邪険にするでもなく、キャッ!キャッ!とはしゃぎながら食堂を出て行った。 少しだけ気分が和んだ。 なるほど。どこの世界でも”乙女は乙女”なのか。 ついで(…といっては失礼だが)に、料理を運ぶメイド達にも手を振る。 一人一人、目が合った順に手を振る。 流石に仕事中であるし、目の前で貴族様の給仕をしているからか、表情や仕草に変化は無い。 そりゃそうだ。と割り切ろうと思った時、一人の黒髪のメイドが横を通る。 (この子には、最初の方で手を振ったな… 黒髪か… うん!”ディ・モールト”可愛い!) 通り過ぎると思った時、目の前で立ち止まり、感謝の意を述べきた。 「御心遣い、ありがとうございます。 貴方様も、お仕事頑張ってくださいね」 …マジで? この世界の女性は優しいなー。 …たとえ社交辞令だとしても。 コチラコソ、アリガトウ。キミモガンバテネ。 ……何故かカタコトでお礼を返す。 メイドは微笑を湛えたまま、礼をして厨房の方に下がっていく。 なるほど、貴族相手(オレは違うが)には笑顔と礼儀が基本てか? 感心しながら、メイドが下がっていった厨房の方をぼーっと見る。……厨房? ―――厨房関係者を味方につける? 余った食材なら、少しぐらい分けてくれるだろうし、さらに料理できるやつなら申し分ない。 良し。決定。後で厨房に行こう。 とりあえず、行けば何とかなるだろう! 気づくと、昨日は何も食べていなかったせいか、果物を残さず全て食べていた。 遠くにいる御主人様も、どうやら食事を終えたようだ。 さあ、御主人様の元へ馳せ参じますか―――。 「…意外と順応してるなぁ。オレ。」 自分の適応能力の異様な高さを感心しながら、うんと背伸びをした。 なんだかんだで、朝飯抜きにせず、 ちゃんと自分に果物を(投げつけて)与えたくれた (すこ~しだけ)優しい御主人様に (すこ~しだけ)感謝しながら ルイズの元へ歩き出す―――。 「…あんた、一年生とかメイドに『手』振ってたでしょ? 笑顔で。」 「え? あ、あれは…。 挨拶です。挨拶。」 「今日から三日間、ご飯抜き。」 「……飛びてー」 前言撤回! 全然優しくない! …早く食料事情を何とかしなければ……。 ―――今晩当たり襲いかかろうか? ……なんとも不穏当なことを考える鮫であった。 「The Story of the "Clash and Zero"」 第2章 ゼロのルイズッ! 中編終了 To Be Continued ==
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/696.html
朝になってアルビオンへ出発するため正門にでる。 おれの荷物はデルフリンガーのみだ。 ルイズは旅用の荷物のほかに王女から預かった『水のルビー』とやらを持っている。 バナナはおやつに入る?って聞いたら怒られた。これは遠足じゃないらしい。 お、ギーシュがやってきた。さあ出発だ。 「お願いがあるんだ」 と思ったら何か話があるらしい、空気を読め、まったく。 「僕の使い魔を連れて行きたいんだが、良いかい?」 まったく、そんなことかよ 「ダメだ」 「何で!?せめて見てからでも良いじゃないか!」 「ダメだ」 「ヴェルダンデ、出てきてくれ」 そういってギーシュが地面を足で叩く。話を聞け。 すると大きなモグラが現れた。 「これが僕の可愛い使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンテさ!」 「なるほど、で味は?」 「食べる気かい!?そんなことしちゃダメだよ!」 食ったらウマそうなんだがなぁ 「アルビオンに行くのよ、そんなの連れて行くなんて、ダメよ」 今まで黙ってたルイズが口を挟んできた。 「そんな…お別れなんてイヤだよヴェルダンテ…」 ギーシュが悲しそうな声で言う、だがそのモグラはルイズに向かって突進した。 そのままルイズを押し倒す。 「おお、これは中々見ごたえがあるな」 それを見たギーシュの感想がこれだ。まったくそのとおりだ、ある意味官能的で実に良い。 「あんたたち!早く助けなさいよ!」 えー、もっと見たいのに。 「このモグラ!姫様から頂いた指輪に鼻をつけないで!」 指輪?水のルビーか? 「ああなるほど、ヴェルダンテは宝石が大好きだからね」 よし、ならこいつは部下にしよう。ついでに後で盗む予定のルビーの罪もなすりつけよう。 さて、そろそろ助けようかな、でもルイズはどうせ感謝しないだろうしどうしようかな。 あ、今の右ストレートは痛いぞ~、助けるのはモグラの方だなこりゃ おれがそのまま傍観するか否かを決めかねていたら強い風が吹いてモグラを吹き飛ばした。 風の魔法か?おれが辺りを見回すと。 おっさんがいた。 そのおっさんはアンリエッタが来る時にルイズが見ていたおっさんだった。 「貴様、僕のヴェルダンテに何をするんだ!」 ギーシュが騒いだ。うるせーなあ。 「僕は敵じゃない。魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルドだ。」 なるほど、おれ達だけじゃ不安だから援軍としてやってきたって事か、だが納得できない事がある。 「敵じゃないのに何故攻撃した?」 敵じゃないならモグラを吹き飛ばす理由などない。これは絶対に不自然だ。 「すまない。婚約者が襲われているのを見て見ぬ振りはできなくてね」 そうかヴェルダンテの婚約者だったのか。変わった趣味だがそれなら納得だ。 「ワルド様!」 いきなりルイズが声を上げた。ちゃんと謝っとけよ、お前はコイツの婚約者をボコボコにしてたんだから。 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 あ、婚約者ってルイズの方か、なるほど婚約者が犯罪者にならないようにモグラを吹き飛ばしたのか。 って納得いかねぇーーーー! なんでルイズが婚約してるの!? モグラじゃなくてルイズ!?ありえねーだろ!あ、モグラの方がありえないか。 つまりお前はロリコンか?ロリコンなのか?おれもだ! おっと混乱しちまった。 おれはロリコンじゃないぞ、ロリコンでもあるってだけでそれ以外もオッケーだ。 だがコイツは真性のロリコンだ。間違いない。 話が脱線したな、元に戻そう。 そのロリコンはルイズを抱え上げ、 「彼らを紹介してくれないか?」 と言った。紹介くらいならまだ良い、だがおれをそっちの道に引きずり込むなよ。迷うから。 「ギーシュ・ド・グラモンと使い魔のイギーです」 ギーシュは頭を下げ、おれも一応下げておいた。目を付けられたくないからな。 「この犬がルイズの使い魔かい?フーケを捕まえた時は大活躍だったらしいね」 まあな、スゴイだろ。でもロリコンのほうがスゴイな、絶対。 「さて」 そういってワルドは口笛を吹いた。その口笛が合図なのかグリフォンが現れた。 そのグリフォンにルイズを抱えたまま跨り、杖を掲げて叫んだ。 「では諸君!出発だ!」 ロリコンのクセに仕切るな。 後で上下関係をハッキリさせてやるぞ。 おれはそう誓いながら馬に乗り込み(もちろん部下にしてある)出発した。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/215.html
この世に『魔法』や『マジック』なるものが存在すると思います? 手品とかそういうのじゃあなくて、手を振りかざしたら炎が出るとか、そんな不思議な力のことです。 ファンタジーやメルヘンじゃあ あるまいし、そんなもの存在するわけがないと答える人が殆どだと思います。 あ、申し遅れました。 僕の名前は広瀬康一。今年4月に入ってから18歳になったばかりの高校3年生です。 まー、僕のプロフィールなんて覚えてくれなくても結構ですけどね。 肝心なのは、僕の名前でも歳でもなく、僕が持っている不思議な能力なんです。 『スタンド』という、超能力に似た能力で、僕が住んでいる杜王町には『スタンド』を持った人間が沢山住んでます。 この能力は、一般の人には見ることも感じることもできません。 だから、一般人相手には知らぬ間に傷をつけたり、物を盗んだりと、色々と好きほーだいできちゃったりします。 もっとも、僕は『スタンド』を悪用することはしませんけどね。 ところで、先ほど話したことですが、『魔法』の存在を信じますか? 僕は信じます。なぜなら、僕はそんな不思議な力が普通に使われてる世界に来てしまったからです。 いわゆる、『魔法の国』という所に。今考えれば、それほど在りえない話でもなかったんです。 なぜなら、僕も『魔法』に似た、『スタンド』という能力を持ってるのだから――。 ――ACTの使い魔―― 桜の花びらがシャワーのように降り注ぐ並木道。 桜だけでなく、タンポポやつくし、動物までもが浮かれるような春真っ只中の道を康一は歩んでいた。 いつも自分の周りに取り巻いてくる露伴や由花子の姿はなく、一人孤独に高校から自宅へと続く道を進んでいる。 家に戻ったらボケ犬の散歩や、山のように出された宿題を片付けなければならないため、その足取りはやや速い。 しかしこの後、康一が自宅に戻り、犬の散歩や宿題を片付けることはなかった。 自宅まで、後1km程という地点で、康一は『不思議な物体』を発見した。 体言するならば、キラキラと光る鏡のようなものと言ったところである。 幅1メートルぐらいの楕円形をしており、ほんの少しであるが宙に浮いている。 一般人ならば、これは一体なんだろうと思い、戸惑うところであるが康一は違った。 この鏡を発見した時に、康一が最初にとった行動は、自分のスタンドであるエコーズACT3を構えることだった。 道端に突如現れた、不自然な鏡のような物体。 こんな自然現象は見たことがないし、宙に浮いた物体なんて聞いたこともない。 ただ一つ、可能性があるとすれば、これがなんらかのスタンド能力であることだ。 スタンド能力であるならば、充分に注意して調べなくてはならない。 ましてや康一は、今まで新たなスタンド能力やスタンド使いには、嫌というほど危険な目に会わされている。 変な髪をしたキッチリ屋に矢をぶっ刺されたり、 姉を手篭めにしようとした変態バカ男に心の錠前を掛けられたり、 思い込みプッツン変人女に髪の毛で拉致されたり、 蜘蛛を平気で舐める変態漫画家に本にされたり、 手フェチの変態殺人鬼に殺されかけたり、 人のパンティーを勝手に取り出す変態少年に紙にされたり……。 大抵ロクな目に会っていないため、嫌でも警戒心は高まるものだ。 康一は、地面に落っこちていた石コロを拾って、鏡のような物体に投げてみた。 石ころは鏡の中に消えた。鏡の裏を見ても、何も落っこちていない。 次にエコーズACT2の尻尾の部分を恐る恐る鏡の中に入れてみた。 そのまま自分の元へエコーズACT2を戻しても、尻尾には何の変化もなかった。 この結果、この鏡のような物体は、どこか他の場所へ続いている『異次元への扉』のような物であると推測できた。 ここで康一は悩んだ。これからどうするべきか? 仗助や億泰などを呼んで、これが何なのか詳しく調べた方が安全であるが、目を離したスキに消えてしまったら元も子もない。 エコーズの尻尾を入れても何の変化もなかったことから、ちょっとくらいなら中に入って調べても大丈夫そうだった。 康一は、恐る恐る鏡の中に入り、中を調べようとする。 その瞬間、康一の体中に稲妻が走るような激しいショックが流れた。 ヤバイと思った時にはもう遅かった。後悔先に立たずとはまさにこのことである。 康一は、全身に痛みが走る感覚を覚え――そのまま気絶した。 「――で平民を呼び……する…」 「ちょ……間違った……」 大人数の人間の笑い声、女の人の話し声が康一の頭の中で響く。 浴びる程酒を飲んで、翌日、二日酔いで頭がズキズキするあの感覚の中で、康一は目を覚ました。 「ううっ……」 康一は頭を抑えながら、顔を上げて辺りを見回した。 黒いマントをつけた人間が、物珍しそうに康一のことを見ていた。 自分の目の前には、桃色がかったブロンドヘアーの女の子がいる。 透き通るような白い肌をしており、まるで人形のように美しかった。 「さすがはゼロのルイズだ!」 そう言って、爆笑の荒らしが沸き起こる。 そんな爆笑の渦の中、康一は何が起こってるのかわからず、ポカーンとしていた。 (ここはどこ? 外国? 異次元? スタンド攻撃? スタンドが作り出した幻? まさか夢ってことはないと思うけど……) 康一は、自分の頬っぺたを抓る。当然だが痛い。 夢ではないようだ。ということは、やはり何かのスタンド攻撃なのだろうか? 「ミスタ・コルベール!」 目の前に居た、ルイズという女の子が怒鳴った。 人垣の中から、変な中年男性が現れて、なにやら言い争っている。 その中年男性は、真っ黒なローブに大きな杖を持っており、まるでファンタジーに出てくる『魔法使い』のようだった。 中年とルイズの会話の内容は、康一には訳のわからない単語ばかりが飛び交っている。 『召喚』だとか、『使い魔』だとか、傍から見れば、頭がイカれてるんじゃあないかって会話である。 「平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 再び、康一の周りで爆笑の渦が巻き起こる。 そんな爆笑を無視して、康一は一体何のスタンド攻撃なのかずっと考えていた。 しかし、スタンド攻撃だったとしても、こんな訳の分からないスタンド攻撃なんて聞いたことがない。 幻を見せるにしても、康一を攻撃する目的なら、もっと凄まじい幻を作るはずだし、 何かの空間を作るスタンドだったとしても、こんなに大人数の人間が、スタンド空間の中に存在するのは不自然だ。 ありえそうなのは、『相手をどこかに瞬間移動させる』スタンドだ。 それならば変な格好をしている、大勢の人間に囲まれているのも辻褄が合いそうだ。 「ねえ」 「……」 ルイズが康一に話しかけるが、反応はない。 「ちょっと、聞いてんの!?」 ビクっと体を反応させ、組んでいた腕を解き、康一はルイズの方へと向いた。 「あ……は、はい!」 「あんた、感謝しなさいよね。 貴族にこんなことをされるなんて、普通は一生ないんだから」 貴族? 貴族ということは、どこかの外国の国だろうか? しかし、さっきからこの人たちは日本語を喋っているみたいだし……。 そんな風に康一が思っていると、ルイズが康一の目の前で杖を振り、 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 と呪文らしき言葉を唱えた。 そして、ゆっくりと唇を近づけてくる。 「え!? あ、あのー、何をす……」 「いいからじっとしてなさい」 そう言って、ルイズは康一の頭を左手で掴む。 「ちょ、あの、僕には、いちおう恋人がいて――」 「ん……」 ズキューンという効果音が康一の頭の中に響く。 「な、なんて……ことを……」 ファーストキスではないが、康一は見知らぬ女性とキスをしてしまった。 もしこの光景を髪の毛を自在に操る彼女が見ていたら、どうなっていただろうか。 康一は、この場に由花子がいなかったことに、心のそこからホッとした。 しかし、ホッとしている場合ではないことにすぐに気が付く。 「い、いきなり何をするんだ! ぼ、僕には恋人がいて、もしこの光景を見られてたら――」 ルイズはそんな康一の言葉を無視するかのようにそっぽを向いた。 その態度は無いんじゃない? と思いながら、左手の甲をさする康一。 (……? 何で僕、『左手の甲』なんてさすってるんだ? それに妙に体が熱くなってきたような――) そう思った瞬間、康一の体が炎で燃やされたように厚くなった。 「う、うわあああああッ! 体が熱い!」 (何で急に体が!? スタンド攻撃? まさか目の前にいる、僕より歳が低そうなこんな少女が本体?) そんな康一を気にする様子も無く、ルイズは苛立った声で言った。 「すぐ終わるわよ。待ってなさいよ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」 「使い魔のルーン? それがキミのスタンドの名前か? いくら女の子だからって、この攻撃をやめないと、こっちも攻撃するぞ!」 「は? スタンド? 何言ってるの?」 「くっ、エコーズACT3ッ!!」 康一は、エコーズACT3を呼び出して、ルイズにFREEZEの攻撃をしようとした。 しかし攻撃する前に、体中の熱が嘘のように消え、平静を取り戻せるようになっていた。 スタンド攻撃をやめたと思い、康一もFREEZEで攻撃するのをやめる。 「ハァハァ……。キミは一体何者なんだ! なぜ僕をここに呼び出した! 僕の体に何をしたんだ! ここは一体どこなんだッ!」 「ったく、色々とうるさい使い魔ね。 ここはトリスティンよ! ここはかの高名なトリスティン魔法学院!」 トリスティン? そんな地名、外国にあったかな? いや、その前に魔法学院? そんな学院なんてあるの? 手品の練習でもするのかな? そんな風に康一が思っていると、中年男性が人垣に向かって言った。 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 中年男性はきびすを返すと、宙に浮いた。 他の生徒も、一斉に宙に浮き、城のようない石造りの建物へ飛んでいった。 康一は、その光景をポカーンとした表情で見ていた。 そして、すぐに我に返り、 「と、飛んだ……! ねえ、ちょっと! あの人たち宙に浮いたよ!」 と、宙に浮いている人々を指差して言った。 「ルイズ、『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともに出来ないんだから、歩いて来いよ!」 そう言って宙に浮いてる間も、ルイズをバカにし笑いながら飛び去って行く。 ルイズはその光景を、歯軋りしながら睨み付けていた。 そして、最後に残された面々は、ルイズと康一だけになる。 ルイズは、ため息をつき、康一の方に振り向いて怒鳴った。 「あんた、なんなのよ!」 「こっちが聞きたいよ! キミは一体何者なんだ! さっきの人たち宙に浮いたけど、全員スタンド使いなの!?」 しかし、ルイズは全く何のことか分かっていない様子であった。 「そりゃ飛ぶわよ。メイジが飛ばなくてどうすんの。 それより、さっきからスタンドスタンドって、一体何のことよ?」 しらばっくれてるのか? いや、もしかしたら単にスタンドという言葉で呼んでないだけかもしれない。 そう思い、康一はエコーズACT2を出す。 「こういう能力のことだよ。 僕はスタンドって呼んでるんだけど」 しかし、ルイズは?マークを浮かべるだけで、首を傾げている。 目の前でACT2の拳を振り上げても、驚く様子も、構える様子もない。 演技をしてるようにも見えない。本当に見えてない様子だった。 「キミ……見えてないの?」 「はぁ? 召喚した時に頭でも打ったの?」 「……」 じゃあ、何故こんな所にいるのだろう? 彼女じゃないとしたら、一体誰が? そう思った康一だが、ルイズが言った『召喚』という言葉が引っかかった。 「あの、今『召喚』って言ったけど、それって何のこと?」 「私が呼び出したのよ。 さっき儀式をしたでしょ? あんたは私の使い魔になったっていうこと」 康一はさっきの鏡のことを思い出した。 あの鏡は、この子が行った『儀式』で現われた亜空間のようなもので、その中に入ったからこうして召喚されたのだろうか。 しかし、康一はこの現実をあまり認めたくはなかった。 いきなり道端に現われた変な鏡を通ったら、そこはファンタジーの世界でした。なんて話は聞いたことがない。 「ハ……ハハ……まさか……大体、使い魔って言ったけど、僕は人間だよ? 冗談きついなぁ~、もう……」 「私だってこんな冴えない生き物は嫌よ……。もっとカッコいいのがよかったのに。 ドラゴンとか。グリフォンとか。マンティコアとか。せめてワシとかフクロウとか、この際、犬でも」 犬以下と認定された康一は、少しだけ悲しくなった。 そして康一は察した。この子はおそらく召喚ってやつに失敗して、僕を呼び出してしまったんだと。 さっき周りの人間たちに大笑いされていたのは、人間である自分を呼び出したからだろうと。 「はぁ……そうですか……」 全てを察した康一は、深くため息をつき、ガックリと肩を落とした。 「ため息つきたいのはこっちよ! とにかく、私は今日からあんたのご主人様よ!」 そう言われて、康一は再び深いため息をついた。 大和撫子のような、大らかでやさしい女性に召喚されたならともかく、 由花子と同じくらい扱いにくそうな女性に召喚されたとなったら、これからどんな気苦労があるか分かったものではない。 「ちょっと、聞いてるの!? 私は二年生のルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。覚えておきなさい!」 「はぁ……えーと、ルイズさんですね……。 僕は広瀬康一って言います」 「変な名前。呼びにくいから 犬 って呼ぶことにするわ」 (犬は酷いよなぁ……。 はぁ~、何で僕、自分より年下っぽい女の子に敬語使ってるんだろ?) こうして康一は、ファンタジー世界へと呼び出された。 なお、これからもっと酷い苦悩に悩まされることになるが、この時の康一は全く気づいてなかった。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/104.html
--夢、夢を見ていた。私は相変わらず『ゼロ』で、他人にバカにされてばかりだったが、夢の中の私は、虚勢こそ張るものの、現実の私と違って、いつだって明るくて前向きだった。 現実の私はいつだって暗い意趣返ししか考えていなかった。 夢の中の私は『サモン・サーヴァント』で平民を召喚していた。 自分と同年代の男の子に、恥ずかしがりながらキスをする私。 冷やかされる私。 腹いせに男の子に八つ当たりする私。 キュルケに言い寄られた男の子に意地を張る私。男の子と一緒に冒険をする私。 男の子に抱きかかえられる私。 ………幸せそうな私。 私私私私私――――――!!! 全ては起こり得なかった泡沫でしかないことが少し悲しい。 ルイズはその有り得なかった可能性に背を向けて、今間近に迫る現実に足を踏み出した。 「…………ぅ、あ…」 酷く体がだるい。 再び意識を手放しそうになるが、必死に抵抗する。 まだ生きているらしかった。 ボーっとする視界を動かしてみる。 どうやらここはシルフィードの背中の上で、自分はキュルケに抱きかかえられているらしかった。 (キュルケ……無事だったんだ…) 自分のように触手の餌食になっていないキュルケに、ルイズはほっとした。 2人とも、視線を下に向けて固まっている。 一体何を見ているのだろうと思い、ルイズは2人が見ている方向に頭を向けた。 見れば、自分の使い魔が……さっきまでバラバラメチャメチャグッチャグッチャだったはずのルイズの使い魔が……、それこそジグソーパズルを組み立てたみたいに『完成』しているのが見えた。 この世の存在とは思えないほどの美の具現。 あれが私の―――そう思ったルイズだったが先ほど自分がその使い魔に殺されかけたことを思い出し、歯噛みした。 使い魔を御せられない主人など、主人であるはずはなかった。 自分が『ゼロ』だからなのか、それともあの使い魔が強力過ぎるからなのか微妙なラインだったが、どちらにせよルイズはまだ諦めるつもりはなかった。 ……最後の最後、とっておきの秘策を、ルイズはまだ試していなかった。危険な冒険。 しかし、それに失敗しようが、このまま逃げようが、結果は変わりはしないとルイズは感じていた。 どうせなら万策尽くしたかった。 自己満足かもしれないけれども。 せっかくこの日のために勉強を重ねてきたのだから。 ルイズは1人、シルフィードから飛び降り(転げ落ちたといった方が正しかったが)た。 ルイズは抜けるような青空を、自分の使い魔めがけて落ちていった。 指一本動かさなくたって、かってに頭から落ちていってくれるのが、ルイズには有り難かった。 こんなこと前例はない。空前絶後の大召喚劇に、不謹慎にもルイズの心は激しく震えた。 落下しつつ、呪文をとなえる。 「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……!」 男がグゥゥゥウウンと立ち上がった。 「五つの力を司るペンタゴン……!」 男の頭が宙を仰いだ。 落下していくルイズは、男と目があった。 血に染まったように真っ赤な目だった。 「彼の者に祝福を与え…ッッッ…!」 ギラリ、と男の目が光ったと思ったら、肩にポッカリ穴が空いた。 それ以前に大量の血液を失っていたので、血はあまり出なかったが、直後に想像を絶する痛みがルイズを襲った。 痛みを気にする暇もなく、ルイズは男めがけてレビテーションを唱えた。空間が集束して、爆裂する。 だが、それはダメージを狙ったものではなく、男の視界を惑わすためだった。 煙の中をくぐりながら、ルイズは最後の一節を紡ぐ。 「我の、使い魔と為せッッ!!!!」 ルイズは再び男の唇に、己がそれを重ねた。 男は思わぬ目くらましに、顔をしかめていたが、目前に迫るルイズに気づき、身をかわそうとした。 しかし。 (もう遅い、脱出不可能よ!!) ルイズは心のなかであざけった。 いつぞやのおかえしとばかりに、今度は唇を自分から無理やり重ねる。 "ズキュゥウウウン!!" また変な音が頭に響いた。 シュゴォォオオ!と、男の片手の甲がまばゆい輝きを放った。 使い魔のルーンが、そこにハッキリと刻まれていた。 ルイズは自分の切り札がうまくいったことを知り、静かに笑った。 "ズドグァオオン!" 次の瞬間、ルイズは男を下敷きにする形で地面に到達した。 13へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1230.html
疑念! 意思の在り処 ゼロ戦の周囲を竜騎士隊が固めて飛ぶ。弾切れのゼロ戦にとってはありがたい護衛だ。 しばらくするとスタープラチナの目が前方にいる十数匹の敵竜騎士を発見した。 迂回できそうなので承太郎はゼロ戦を傾け方向を変える。 すると他の竜騎士もゼロ戦を囲むように軌道を変え、戦闘の竜騎士が速度を調節してゼロ戦に接近してきた。 承太郎は伝令用の小さな黒板にスタープラチナで素早く文字を書いてそれを見せる。 『前方に竜十数騎確認、回避する』 彼は慌てて前方を確認するが敵影など見つけられなかった。 だが『ひこうき』という奇妙な風のマジックアイテムを使う彼等は、多分自分達では解らない何らかの方法で敵の存在を知りえたのだろう。 ゼロ戦と竜騎士隊は順調に敵を回避しながらダータルネスへと接近する。 しかしダータルネスまで後少しというところで、承太郎はそれを発見した。 それは百騎を越えようかという竜騎士の群れ。 そして地図につけられた幻影作戦目的地は、百の竜の群れの目前であった。 つまり発見される前提で百の竜の前に飛び出さなければならない。 百の竜の存在を承太郎は小さい黒板に書いて皆に教える。 すると竜騎士隊は互いの顔を見てはうなずき合い、百の竜の待つ空へと突っ込む。 「えっ!? じょ、ジョータロー! 大変、みんなが……!」 「野郎……そういう、事か。……何が護衛だ、あいつ等は……捨て駒だ」 「捨て……? ま、まさか、囮になって私達を……」 「……行くぜ、ルイズ。詠唱の準備に入れ」 「ジョータロー!? 本気!?」 竜騎士隊を盾にするようにしてゼロ戦を飛行させながら、承太郎は奇妙な感覚に陥った。 ――これは本当に、俺が望んだ戦いなのか? 味方の竜騎士が敵の竜騎士の注意を引く。 そして複数の竜騎士から魔法を受けて墜落し、またはゼロ戦への攻撃を自ら受けて墜落し、彼等は若い命をアルビオンの空に散らしていく。 ――こうなる事は解っていたはずだ。ウェールズの仇を討つための戦争なんだからな。 承太郎はスタープラチナで座席の下のレバーを引っ張った。 コルベールからもらった説明書の内容が正しければ、これで速度が増し敵を振り切れる。 尾翼下の胴体の外板がはずれて鉄の筒が現れると、そこから青白い炎が噴出する。 炎の使い手コルベールが開発したロケット推進機関だ。 ――仇を討つなら俺一人でアルビオンに忍び込みクロムウェルを暗殺すればいい。 ゼロ戦の加速に敵の竜騎士達は驚愕し、追いつく事も魔法の狙いをつける事も不可能。 これで作戦は成功したも同然だろう、竜騎士隊の犠牲を払って。 ――なぜ俺は異世界の戦争なんかに首を突っ込んでいる? ゼロ戦は計器速度で450ノット近い速度を捻り出して飛び続ける。 敵を振り切った今、ダータルネスまで障害は無い。 ――この世界で戦う理由を見つけた途端、俺はそれをしなくてはならないと思った。 ウェールズを殺し、そして死後までも彼の生命と名誉をもてあそんだレコン・キスタを、確かに承太郎は許せないし怒りも感じている。 だが何かが違う。その怒りが何かに利用されている気がする。 ダータネルスの港に到着し、船を係留するための桟橋が多数見えてきた。 「上昇して。虚無の魔法を使うわ」 「…………」 承太郎は無言でルイズの指示に従い、ゼロ戦を操縦する。 高度を下げて減速し、風防を開けてルイズが詠唱を開始すると、承太郎は先程まで考えていた疑問が薄らいでいくのを感じた。 ルイズの虚無の詠唱を聞いていると、なぜか心が安らぐ。 作戦がうまくいきそうだから安心しているのだろうか? 仲間を――犠牲にしたのに。 わずかな疑心が、安らぎを拒絶する。 エクスプロージョン。ディスペルマジック。 あの時に感じた高揚感や信頼感などは、今感じているこの感情は、まさか。 詠唱が完成する。 描きたい光景を強く心に思い描くべし。 なんとなれば、詠唱者は、空をも作り出すだろう。 虚無の魔法イリュージョンにより雲が掻き消え、空に幻影が描かれ始める。 それは巨大な戦列艦の群れ。 ここから何百キロメイルも離れた場所にいるはずのトリステイン侵攻艦隊の姿。 ロサイスに向かっていたアルビオン艦隊は、ダータルネス方面からの急便の知らせを聞き全軍を反転させた。 ヴュンセンタール号の作戦会議室で将軍は報告を受け取り、もぬけの殻となったロサイスへ全軍を全速前進させた。 しかし上陸が成功しても苦しい戦いになるだろう、アルビオンには手つかずの五万の軍隊が眠っているのだ。 帰還中のゼロ戦の中には沈黙が流れていた。 竜騎士隊の犠牲を目の当たりにしてルイズは落ち込んでいたが、きっと承太郎も同じ気持ちだろうと思い無言の彼を気遣っていた。 だが承太郎は、確かに彼等の犠牲を憂いてはいたものの、ずっと考え事をしていた。 『使い魔として契約していない竜は気難しく、乗りこなすのが一番難しい幻獣なんだ。 乗り手の腕、魔力、頭のよさまで見抜いて乗り手を選ぶんだぜ』 先日、竜騎士隊の一人が言った言葉を思い出す。 つまり使い魔として契約すれば、竜は無条件で主を乗り手として選ぶ。 タバサのシルフィードもとても従順で、タバサだけでなく自分達も平気で乗せる。 使い魔とは、そういうものなのだろうか。 だとしたら自分はどうなのか? 伝説の使い魔ガンダールヴのルーンを刻まれた自分は? この世界で戦うと決めたのは本当に自分の意思か? この世界でウェールズの仇を討つと決めたのは本当に自分の意思か? この世界でルイズを守ると決めたのも本当に自分の意思なのだろうか? 自分の怒りは悲しみは、使い魔のルーンに介入されてしまっているのではないか。 脳味噌が頭から左手に移ったような気分になり、承太郎はタバコを点けた。 そういえば最近あまり吸っていなかった、ルイズが嫌がるからだ。 「ちょっと、こんな所で吸わないでよ。煙がこもるじゃない」 「……やかましい、黙ってろ」 ルイズを気遣ってタバコを吸うのをやめようかと一瞬考えたのは、本当に自分の意思か? 気分転換のために吸っているはずのタバコが、やけに不味く感じられた。 自分の意思の在り処はどこなのだろう? 頭か、胸か、それとも左手か。 一匹の風竜がアルビオンの空を飛んでいた。 黒衣の男を乗せたその竜は、何かを発見してそれを主に教えよう小さく鳴く。 だが竜は人語を話せない。 伝説の韻竜でもなければ、人間との完全な対話は不可能だ。 だが黒衣の彼は風竜の頭を撫でるとを森の中に降下させ、そこに倒れている竜騎士隊を発見する。 着ている服装を見るにアルビオン軍ではないようだが、だとするとトリステインかゲルマニアの連中だろうか? なぜこんな場所に? 主から連合軍に協力するよう言われているし、見捨てていくのも寝覚めが悪い。 人間十名は全員重傷、風竜は一匹だけ無事で擦り傷がある程度だが気絶している。 残る九匹の風竜は全部死んでいた。死因は魔法で受けた傷や落下した衝撃。 そして生き残った十人の騎士達が死ぬのは時間の問題であり、水のスクウェアメイジが貴重な秘薬を使っても助かりそうにない奴もいる。だが。 「死んでいないのなら……問題なく『治す』!」 黒衣の男は、手袋をつけた両手からさらに『腕』を出して、竜騎士隊の騎士と竜を次々と触っていった。 「さて、こいつ等が目を覚ましたら……トリステイン軍の旗艦にでも行くか。 ガンダールヴが承太郎さんだったとして、どうすっかな~?」 黒衣の男は、ハルケギニアの人間では決してありえない『個性的』な髪型だった。 第六章 贖罪の炎赤石 完 ┌―――――――┘\ │To Be Continued └―――――――┐/
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/729.html
ルイズにはなにが起こったかわからなかった。 目の前のものが『何』かは理解できる。 だが『なぜ』そこにいるのか? それが理解できなかった。 周りの皆の嘲笑がそれを理解させた。 「さすがは『ゼロ』のルイズ! 平民を召喚するなんて!」 「君はやればできる子だと思ってたよ! ププッ」 ルイズは瞬時に行動に出る。 「ミスタ・コルベール! やりな――」 「だめです無理です儀式です。君には最後までやってもらいます」 ハゲは否定する。頭皮は拒絶する。それは絶対的宇宙意思―― ルイズはあらためて『それ』を見る。 相手のほうも、なにが起こったかわからないようで、怯えている。 それにしたって異常な怯え方だ。 よく見るとずぶぬれで、手には何か包みを持っている。 「ちょっとアンタ!」 声をかけるとビグゥッ! と震えた。ルイズぷちショック。 「あ…あなたは?」 「…聞いて驚きなさい、わたしの名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 そして! 間髪いれず! 一気に!! 「平民の分際で! 貴族にこんなことされるんだから感謝しなさいよね!」 その唇に! キスをッ! ブチュルブチュルとブチ込んだッ!! そいつの左手にズギュンとルーンが刻まれていく。 (間違いないわ…ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール…『この人』は……) 『女の子が好き』 ~百合の使い魔~始まらないよ! 一体なんでこんな事になったのか、今でもわからないわ―― ――わたしはただ、小瓶を拾ってあげただけ。 このグラモンとかいう人をどうこうしようなんて、まるで考えてなかった。 小瓶を机の上に置いた途端、彼の周りが騒がしくなったの。 それから――すごい平手打ちだったわ。食堂中に音が鳴り響いたもの。 ――でも、それだけじゃなかった。 ワインを頭からかけられて、極め付きの一言―― 「最低! もうそのワイン臭い面見せるんじゃないわよッ!」 彼は私のことをすごい目つきで見てた。 「君は確か…ミス・ヴァリエールの……」 「ちょっとギーシュ! 人の使い魔に何ちょっかいかけてんのよ!」 そこに彼女が割って入ってきた。 「使い魔の不祥事は主の不祥事……償ってもらうぞヴァリエール! 『決闘』だッ!」 「はぁ? 急に何言い出してんのよアンタ?」 「ぼくが勝ったら……」 「話聞いてる?」 本当に、何がなんだかわからないの。 「彼女をぼくにくれッ!! 決闘だ! 『愛』のために!!」 (これで間違いないわ…ギーシュ・ド・グラモン…『この人』は……) 『私のことが好き』 ~百合の使い魔~決闘祭りよッ! ルーシーは、特に決闘に興味が無かったので、ルイズの部屋でごろごろしていた。 何しろ、この部屋には『脊椎』が置いてあるのだ。出来るだけそばにおいておきたい。 もしかしたら『遺体』のパワーで突然元の世界に戻れるかもしれない。 ガチャリ、とドアが開いてルイズが入ってきた。 「お帰りなさ――どうしたのその顔!?」 ルイズの顔は随分とひどく腫れ上がっていた。 そして同時に晴れ上がった顔でガッツポーズを取るルイズ。 ルイズの話によると、決闘は両者が同時に杖を落としてしまい、素手による乱闘に突入。 ギーシュは空気投げでルイズを翻弄し、ルイズは逆立ちでギーシュを困惑させる。 それでも決着がつかず、お互いを強敵(とも)と認め合ってその場は収まったらしい。 (女の子とガチで殴り合って引き分けって、正直大概よね) (スティーブンだったらこんな華奢な女の子、一発でノシて今頃サーカスに売り飛ばしてるところよ) (ルイズってそういう層に需要が高そうだし、割りといい値段がつくわね) (そういえば家柄も貴族だし、キュルケのサラマンダーどころの話じゃないわ) (好事家に見せたら、値段なんかつかないわ) 夫のことを思い出してセンチな気分になるルーシー。彼は今大丈夫だろうか? ルイズがベッドに寝転んできたので、いつものように「よちよち」と頭を撫でてやる。 ゆっくりと何回か撫でてやると、ルイズは気持ちよさそうに眠りについた。 だいぶルイズも主従関係というものがわかってきたようだ。 何者かに見られている感覚を味わいながらルーシーは思った。 (間違いないわ…オールド・オスマン…『あの人』は……) 『スケベジジイ』 ~百合の使い魔~盗撮祭りよッ!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/387.html
康一とギーシュが、ヴェストリの広場で決闘を始めていた頃、学院長室ではコルベールが泡を飛ばしてオスマン説明していた。 春の使い魔召喚の際に、ルイズが康一という平民を呼び出したこと。 そして、その康一に刻まれたルーン文字が気になり、それを調べると、『始祖ブリミルの使い魔たち』という文献に、全く同じルーン文字が載っていたことを。 「なるほどのう……」 オスマンは、コルベールが描いた康一のルーン文字のスケッチを見ながら呟き、言葉を続けた。 「して、これは何の使い魔のルーンなんじゃ?」 「それなんですが、ここを見て下さい!」 コルベールは、『始祖ブリミルの使い魔たち』に書かれていた、ルーン文字の項を開いた。 そこには、様々な使い魔に刻まれていたルーン文字が表のようになって載っていた。 その表の中に、康一の手に刻まれたルーン文字と全く同じルーン文字が載っている。 オスマンは、そのルーン文字を見ながら目を見開いた。 「ふむ……。ほほう、これは……」 「もうお分かりかと思いますが、このルーンは何の使い魔のルーンであったか、書かれてないんです!」 オスマンは、長い髭を弄りながら首を傾げた。 「妙じゃのう……。他のルーンは全て名前が記されておるぞ。 ここに書かれている『ガンダールヴ』とかな……。なぜこれだけ記されてないんじゃ?」 何も名前が記されてないルーン文字を指差して質問してくるオスマンに戸惑いながらも、コルベールは質問に答える。 「自分なりに、二つの仮説を立てて見たのですが……」 「ふむ、言ってみなさい」 コルベールは、禿げ上がった頭をハンカチで拭きながら言った。 「まず一つは単純なものでして、単に書き忘れたか、ここの文字だけ剥げてしまったか……です」 「なるほど。して、もう一つは?」 「召喚後すぐに、何らかの原因でその使い魔が死に至ったか……です」 コルベールは、コホン、と咳払いをしてから話を続けた。 「この場合、何の種類で、どんな能力を持っていたのかわからず、名を記すことすら出来なくなりますからね……」 オスマンは瞑っていた目を静かに開くと、悟ったように言った。 「つまり、こういうことか? 『あの平民は未知の能力を持った、未知の使い魔である可能性がある』」 「Exactly(その通りでございます)」 コルベールが頭を下げながら答える。 そんなやり取りが行われてる時、ドアをノックする音が聞こえてきた。 「誰じゃ?」 オスマンがドアの前までいくと、ドアの向こうからロングビルの声が聞こえてきた。 「私です。オールド・オスマン」 「なんじゃ?」 「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています。 止めに入った教師がいましたが、生徒達に邪魔されて、止められないようです」 オスマンは、髭が揺れるほど深いため息をついて言った。 「まったく、暇をもてあました貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるんだね?」 『暇をもてあました貴族ほど、性質の悪い生き物はいない』と聞き、 貴方もその一人よ、クソジジィ! と思いながら質問に答えるロングビル。 「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」 その名前を聞き、やれやれと言った感じで俯くオスマン。 「あの、グラモンとこのバカ息子か。あんな寄生虫なんぞ、放っておきなさい」 「しかし……」 「おおかた女の子の取り合いじゃろう。相手は誰じゃ? どうせマリコルヌのカスあたりじゃろう」 仮にも自分の生徒を、寄生虫だのカスだの酷い男だ……。などと思いながらコルベールは聞き耳を立てている。 「……それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の少年のようです」 オスマンとコルベールは顔を見合わせた。 「……なんじゃて?」 「ミス・ヴァリエールの使い魔の少年です。教師達が、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可がほしいと……」 オスマンの目が、鷹のように鋭く光った。 「アホか。たかがそんなことの為に、秘法を使えるか。もう一度言うぞ、放っておきなさい」 「……わかりました」 ミス・ロングビルが去っていく足音が聞こえた。 コルベールは唾を飲み込んで、オスマンに質問した。 「オールド・オスマン、まさか……」 「うむ、その『まさか』じゃ。もしかしたら凄いものが見られるかもしれんぞ」 そう言って、オスマンは杖を振った。 壁に掛かった大きな鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出される。 「オールド・オスマン! 危険すぎます! 万が一、あのルーンにとてつもない能力が秘められていたら……」 「その時は私が責任を取ろう。私はただ純粋に、どんなものか見てみたいのじゃよ。キミだってそうだろう?」 コルベールは静かに目を瞑り、軽く頷いた。 オスマンは、鏡の前にあった椅子に座り、ギーシュと康一の戦いの様子を静観し始めた。 康一の怒りは頂点に達していた。 目の前いる男、ギーシュは何の関係もないシエスタを傷つけた。 彼女は気絶しただけで済んだが、もし当たり所が悪ければ最悪の事態もありえた。 「よくもシエスタさんを……」 そう言って、康一は怒りの眼差しでギーシュを睨みつける。 一方、ギーシュは突然の乱入者によって完全に動揺していた。 「ぼ、僕のせいじゃない……あ、あんなの予測できるはずがない……!」 ギーシュは、今まで女を泣かしたことは何度もあったが、殴ったりしたことは一度も無かった。 それは、貴族だろうと平民だろうと、美人であろうとブスであろうと例外は無い。 ギーシュにとって、女を殴ったり蹴ったりするのは、この世でもっとも最低の行為であると思っているからだ。 「あ、あれは……あれは不可抗力だ……」 しかし、不可抗力とはいえ、女を殴ってしまった事実は揺ぎ無かった。 康一は、どんどんギーシュに近寄ってくる。 ギーシュの頭の中は、後悔、混乱、恐怖といった感情がぐるぐると交差していた。 「ち、近寄るな……」 ガタガタと震えながら後ずさりするギーシュ。 康一が迫ってくる恐怖に我慢できなくなり、ギーシュの理性が弾けた。 「ぼ、僕のそばに近寄るなああー――ッ!」 鬼でも見たかのような表情で薔薇を振り、ゴーレム達に攻撃を命じる。 一体のゴーレムが康一を攻撃しようとした瞬間、『ドガァァァン』という音と共に、粉々に弾けとんだ。 「あ……ああ……うわぁぁぁああああああー――ッ!!」 二体目、三体目のゴーレムが康一に殴りかかる。 康一が、少し体をずらした次の瞬間、二体目と三体目のゴーレムが『ズバッ』という音と共に、豆腐のように切り裂かれた。 二体のゴーレムは、真っ二つになって地面に転がる。 「く、来るなッ! 来るなッ! 来るなぁぁぁあああああー――ッ!!」 残りのゴーレムで、一斉に康一を攻撃する。 四方を取り囲み、完全に康一の体を捕らえたと思った瞬間、『ドンッ』という音と共に、全てのゴーレムが上空に吹っ飛んだ。 康一の後方で激しい金属音を立てながら、ゴーレムは思い切り地面に体を叩きつけ、バラバラに分解した。 「うぁ……ぁぁああ……」 全てのゴーレムがやられ、無防備になったギーシュを守る者はどこにもいなかった。 ギーシュの頭に絶望の二文字が浮かんだ。 一瞬でゴーレム達を倒したバケモノ、勝てるわけがない……。 そう思いながら、震えていたギーシュの目の前に康一が迫る。 「ひッ! く、来るなッ! 来ないでくれぇぇぇぇええええー――ッ!」 ギーシュは自分の杖である薔薇を投げ捨て、康一から逃げようとする。 しかし、ACT2は既に、ギーシュに『ピタッ』という音を張っており、ギーシュは一歩も動けなかった。 康一は、身動きが取れないギーシュを、鋭い眼差しで睨みつける。 ギーシュは、まるで巨大な鬼か悪魔に見下ろされたような気分になり、全身をガタガタと震わせていた。 「ひぃぃッ! こ、殺さないでくれ……! た、頼む……!」 康一は、命乞いするギーシュを無言でブン殴った。 エコーズではなく、自分自身の拳でギーシュに右ストレートを浴びせていた。 『ピタッ』という音が剥がれ、ギーシュは地面に転がった。 「あが……ぐぐぐ……ぐ……」 「いいかッ! 今のは、シエスタさんを侮辱した分だッ! そしてッ!」 康一は、ギーシュの胸倉を掴んで、さっきよりも強く拳を握り締める。 「これはお前のガラクタに殴られた、シエスタさんの痛みだァー―――――ッ!!」 「うわぁぁぁあああああああああー――――――ッ!!」 康一の渾身を込めた一撃が、ギーシュの顔面ど真ん中にクリーンヒットする。 前歯が一本抜け落ち、ギーシュは顔面を押さえながらもだえている。 康一は、地面を転げまわっているギーシュに馬乗りなった。 「も、もう止めてくれッ! 僕が悪かったッ! 謝るッ! 謝るからもう許してくれぇ……」 情けない声を上げながら、ギーシュは涙を流した。 「僕のことなんてどうでもいい……」 康一は、気絶しているシエスタをチラリと見て言葉を続ける。 「シエスタさんに言った言葉を取り消せ。そしてちゃんと頭を下げて謝るんだッ!」 「わ、分かった……。取り消す! ちゃんと謝るッ! なんでもするッ!」 馬乗りになっていた体勢を解き、康一は立ち上がった。 「本当だな? 嘘をついたら承知しないぞッ!」 「き、貴族の誇りに誓う!」 康一はニヤリと笑って、ギーシュを指差して言った。 「よし、なんでもするって言ったな……。 それじゃあ明日からさっそく……炊事、洗濯、家事の世話を全部やれ!」 「えッ!!」 「フフ……ジョーダン! ほんのジョーダンだって! フフフ……」 ギーシュの肩にポンっと手を置いて、康一はシエスタの所へ向かった。 康一に脅されたギーシュは、涙を流しながら呆けていた。 「……。(じょ、冗談に……き、聞こえなかった……)」 シエスタを抱え、歩き出そうとする康一の元に、ルイズが駆け寄った。 「コーイチ!」 「どうだい、勝ったぞ……。少しは僕のこと見直してくれたかい?」 「ふ、ふんだ。ギーシュが弱かっただけよ!」 突如、康一に重い疲労感が襲った。膝が抜け、力が一気に抜ける。 「そ、そんなことより、治療……」 「ぼ、僕は後回しでいいからさ……シエスタさんのこと……頼むよ……」 抱きかかえていたシエスタをそっと置いて、康一は地面に倒れた。 意識が朦朧とする康一に、ルイズの叫び声が聞こえてくる。 ――そういえば……僕のエコーズACT2は、物理的ダメージはないはずなのに…… どうしてあのゴーレムに対しては爆発させたり、分断させたりできたんだろうか? しかも……今までにない物凄いスピードで……まあ、今は……休みたい……な―― そんな風に思いながら、康一の意識は闇へと沈んだ。 それと同時に、康一のルーン文字の光もふっと消えた。 広瀬康一――気絶。ルイズの治療を受ける。 シエスタ――大した怪我じゃなかったため、この後、すぐに目を覚ました。 ギーシュ――この後、シエスタに謝りに行った。前歯が一本抜けたため、『歯抜け(マヌケ)のギーシュ』というあだ名がついた。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/225.html
ヴァニラはどこに消えたのか? ルイズが壁の穴の前で思案に暮れている時 彼はまさにその穴を通り抜け外にいたッ 自らのスタンド、クリームの口内に潜り込みこの世界から姿を消す スタンドが小さくなったとはいえその口内に広がる亜空間の容量はヴァニラにすら判らないほど広大ッ 彼が潜り込む等造作もなかった 時折外を確認し、物を削って移動の痕跡を残さぬよう注意し やがて人気のない洗い場にたどり着いた 「どうすればいいのだ・・・・・」 とりあえずルイズの部屋からは抜け出したものの、エジプトに戻る方法も行く当てもないヴァニラはこの世界において完全に孤独ッ そもそもこの弱ったスタンドでは戻ったところで何の役に立つというのか 小さくなったクリームの口内から少々苦労しながら体を出し、腰を下ろそうとするが 「きゃっ!」 突然背後から上がった悲鳴と、それに続く何かの落ちる音に弾かれた様に振り返る 「誰だッ!」 クリームを飛ばそうと身構えるがそこにいたのは洗濯物を満載した籠を持った――正確には持っていた、メイド服の少女ッ どうやら何もないところから出てきたヴァニラに驚いたらしい 「も、もうしわけありません・・・・あの、ミス・ヴァリエールの使い魔になられた方ですよね?」 少女は恐る恐る問いかける 「・・・・・・・・・・そうだ」 しかしヴァニラは目に見えて不機嫌になり、少女は更に恐縮してしまった 「も、もうしわけありませんッ!」 体が折れてしまうんじゃないかと心配になるほどに少女は何度も何度も頭を下げ、その態度に流石のヴァニラも居た堪れなくなる 「もういい、頭を上げろ」 本当に申し訳なさそうに頭を下げる少女に仕方ないといった様子で声をかける 「はい、申し訳ありません・・・・ええと」 ようやく顔を上げた少女は困ったようにヴァニラの顔を見上げる 「ヴァニラ・アイスだ」 「あ、もうしわけありません」 ヴァニラが名前を告げると慌てたように頭を下げ 「ヴァニラ様ですね。私はここで貴族の皆様のお世話をしているシエスタと申します」 と、恭しく名乗り返した シエスタの態度はここへ来て傲慢な貴族しか見ていなかったヴァニラにとってとても好ましく思えた 「それでシエスタ、お前はここで何をしていたんだ?」 「あ、私は洗濯を・・・・」 シエスタはそう答えると今頃思い出したのか、慌てて落としてしまった籠を拾い上げる 「・・・・・・」 ヴァニラは無言で零れ落ちた洗濯物を拾い、籠に入れた 「え、あの、ありがとうございます」 再び少女は恐縮しもう一度恭しく頭を下げるがその弾みで洗濯物が幾つか零れ落ちた ヴァニラがまた拾い上げようと身を屈めると 「見つけたわよヴァニラッ!」 肩で息をしながらルイズと、その後ろから見るからにキザそうな金髪の少年が洗い場に駆け込んできた 「ミス・ヴァリエール、君の使い魔はなかなか手が早いようだね」 「うるさいわねギーシュ、もう見つけたんだから帰ってもいいわよ!」 ギーシュと呼ばれた少年はルイズの言葉にむっとしたようだが、これ以上面倒ごとに関わる気はないのか何もいわず帰っていった 「・・・・・」 しかしヴァニラはギーシュの台詞に些かむっとした様子、何か言おうとしたが 「ちょっとヴァニラ、どういうつもり?使い魔が逃げ出したなんて聞いたこともないわッ!」 わめき散らすルイズに阻まれ、それは叶わなかった 「うるさい、それよりもルイズ」 ヴァニラは面倒くさそうにそれを遮る 「大体・・・・何よ?」 平民如きに呼び捨てにされたのはムカついたが一先ずストップ、自分より遥かに背の高い使い魔の顔を見上げる 「お前如きに仕えるのは本意ではないが、使い魔とやらになってやろう」 スタンドも月までぶっ飛ぶこの衝撃ッ! ヴァニラが自分から使い魔になると言い出したッ!! (ここで癇癪を起こしたところでDIO様の元へ帰れるわけじゃない。ならばあの小娘の元で帰る方法を模索した方がましというものだ) 今一度冷静になり、己の身の振りを考えた結果だった 「は・・・・?あ、当たり前でしょ!アンタは私の使い魔でもう契約の・・・そのしたんだから!!」 契約に伴った行為を思い出し赤面するルイズ、そもそもヴァニラの知らないことだが サモンサーヴァントの儀式には使い魔に口付けをしなければならない 幸いにも『お前如き』といわれたのは耳に入らなかったようだ (DIO様、いつの日か必ずお傍へ参ります。どうかその時までご健在であられて下さい) こうして、ヴァニラの使い魔としての生活が始まった To Be Continued...